「マイクロ法人をつくると社会保険料が安くなる」という話を、副業やフリーランスの情報を集めるなかで一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。たしかに、個人事業主のまま国民健康保険・国民年金を払い続けるのと、マイクロ法人(ひとり法人)を経由するのとでは、社会保険料の負担が大きく変わるケースがあります。では、実際にいくらくらい安くなるのでしょうか。
この記事では、なぜマイクロ法人だと社会保険料を抑えられるのかという仕組みを、個人事業主との比較で整理します。そのうえで、削減額を左右する「役員報酬の設定」、扶養家族がいる場合の効果、そして見落としやすい注意点までを中立にまとめます。社会保険の料率や等級は毎年見直され、個人の状況によっても変わるため、本記事の金額は目安として読み、最終的な判断の前には必ず最新の公式情報と専門家への相談を前提にしてください。
なぜマイクロ法人だと社会保険料が安くなるのか
そもそも個人事業主と法人とでは、加入する社会保険の種類と、保険料の決まり方がまったく違います。この「決まり方の違い」こそが、社会保険料を抑えられる余地が生まれる理由です。まずは両者の仕組みを並べて見てみましょう。
個人事業主=国保・国民年金は「所得連動」
個人事業主は、国民健康保険と国民年金に加入します。このうち国民健康保険の保険料は、前年の所得をもとに計算される部分が大きく、所得が増えるほど保険料も上がっていく仕組みです。つまり、事業が順調に育って所得が増えるほど、国民健康保険の負担も比例して重くなっていきます。国民年金は定額ですが、所得が高い人ほど国民健康保険料の伸びが効いてくるため、トータルの負担感は所得とともに増していきます。
法人=健保・厚生年金は「役員報酬連動」
一方、法人をつくって自分が役員になると、加入するのは会社の健康保険(協会けんぽなど)と厚生年金になります。こちらの保険料は、事業のもうけ全体ではなく「役員報酬(自分が会社から受け取る給与)」の額に応じて決まります。具体的には、役員報酬を一定の幅ごとに区切った「標準報酬月額」という等級にあてはめて計算されます。ここが最大のポイントで、役員報酬を低めに設定すれば、それに連動して社会保険料も低い等級に収まるのです。事業の利益が大きくても、自分への報酬を抑えれば社会保険料は最低水準に近づけられる、という構造になっています。
いくら安くなる?役員報酬の設定がカギ
社会保険料をどこまで下げられるかは、役員報酬をいくらに設定するかでほぼ決まります。標準報酬月額には下限(最も低い等級)があり、役員報酬をその下限に収まる水準まで下げると、社会保険料を最安に近づけられます。一般に「月額数万円台」に設定するのが社保最安を狙う際の目安としてよく挙げられますが、具体的にどの金額でどの等級になるかは、その年の保険料額表によって変わります。正確なラインは協会けんぽなどが公表する最新の保険料額表で確認してください。
個人事業主として所得が増え、国民健康保険料が年々重くなっていた人が、マイクロ法人に役員報酬を低く設定して切り替えると、社会保険料の負担が大きく下がるケースがあります。情報源によっては年間数十万円規模の削減例も紹介されていますが、これはあくまで条件がそろった場合の試算です。自分の場合にいくら変わるかは、現在の所得・家族構成・住んでいる自治体の国民健康保険料率によって変わるため、シミュレーションで確かめるのが確実です。
扶養家族が多いほど効果が大きい
マイクロ法人による社会保険料の最適化は、扶養家族がいる人ほどメリットが大きくなりやすい点も知っておきたいところです。国民健康保険には「扶養」という考え方がなく、世帯の加入人数や所得に応じて保険料がかかります。これに対して、会社の健康保険では、被保険者本人が保険料を払えば、配偶者や子どもなどの被扶養者が何人いても、その人数によって保険料が増えることは原則ありません。
そのため、家族を養っている個人事業主がマイクロ法人を活用すると、家族の分の保険料負担という観点でも差が出やすくなります。逆に、独身で扶養する家族がいない場合は、削減効果が相対的に小さくなることもあります。自分の家族構成が効果にどう影響するかを意識して試算することが大切です。
「個人事業主+マイクロ法人」の二刀流という考え方
社会保険料の最適化を狙う人の間でよく語られるのが、「個人事業主を続けながら、別にマイクロ法人も持つ」という二刀流のスタイルです。事業の主たる収入は個人事業として残しつつ、社会保険に加入するための器としてマイクロ法人を別に用意し、そちらの役員報酬を最低水準に抑えることで、社会保険料を最小化するという考え方です。ただし、この使い方は法人に実態のある事業が必要であり、形式だけ整えても認められないリスクがあるため、設計には注意が必要です。
いずれにしても、削減効果の大きさは役員報酬をいくらに設定するかにかかっています。役員報酬を最適に決める考え方や、社保を最安に近づける具体的な設定パターンについては、実際に合同会社を運営している筆者がリアルな数字で解説した記事が参考になります。あわせて、法人を維持するうえで避けて通れない税理士費用の目安も確認しておくと、トータルの損得がつかめます。
削減額のカギは「役員報酬」:自分の数字に落とし込むなら
マイクロ法人で社会保険料をどこまで下げられるかは、役員報酬の設定でほぼ決まります。社保を最安に近づける考え方と、丸投げした場合の税理士費用のリアルな金額を、合同会社を実際に運営する筆者が実体験で解説しています。維持コストまで含めて、削減効果を「自分の数字」で見積もる材料にしてください。
見落とせない注意点
社会保険料が安くなるという点だけに目を向けると、判断を誤ることがあります。次の点はとくに誤解されやすいので、必ず押さえておきましょう。まず、すでに会社員として勤務先の社会保険に加入している人が、副業でマイクロ法人をつくっても、思ったような削減にはなりません。勤務先の社会保険にすでに入っている状態では、二重に負担が生じることもあり、個人事業主のケースとは前提が異なります。
また、社会保険料を最低限に抑えるということは、将来受け取る厚生年金の額も最低限になるという裏返しでもあります。目先の保険料だけでなく、老後の受給額まで含めて長期で考える必要があります。さらに、社会保険料の負担を減らすことだけを目的に、実態のない法人をつくるような使い方は、制度の趣旨に反するとして問題視される可能性があります。社会保険は家族構成・所得・年齢によって最適解が大きく変わるYMYL領域です。本記事の内容はあくまで一般的な仕組みの説明として読み、実行に移す前には税理士や社会保険労務士などの専門家に相談することを強くおすすめします。
まとめ:仕組みを理解し、自分の条件で試算する
マイクロ法人で社会保険料が安くなるのは、保険料の決まり方が「所得連動」から「役員報酬連動」に変わるためです。どれだけ下がるかは役員報酬の設定しだいで、扶養家族が多い人ほど効果が出やすい傾向があります。一方で、会社員の副業では削減できない、将来の年金が減るといった注意点もあります。
- 仕組み:個人は国保・国民年金(所得連動)、法人は健保・厚生年金(役員報酬連動)。
- 削減のカギ:役員報酬を低く設定し、標準報酬月額を最低等級に近づける(具体額は※公式の保険料額表で確認)。
- 効果が大きい人:扶養家族が多い個人事業主。被扶養者が増えても保険料は増えない。
- 注意点:会社員の副業では削減できない/将来の年金も最低限になる/実態のない法人はリスク。
- 社保はYMYL分野。最終判断は最新の公式情報+専門家への相談を前提に。