世の中には情報が溢れていて、どの情報を信じればよいかわかりませんよね?
そんな中、情報に「○○医師も推奨!」とついていたらどうでしょう。
一気に情報の信頼感が上がったと感じませんか?
もし、「医者のお墨付きなら間違いない」と思ったあなた、気を付けて下さい。
確かに医者などの「専門家の意見」は説得力があるように感じますが、エビデンス(根拠)レベルは最も低く、何も考えずに鵜呑みにしてはいけないのです。
場合によっては、まったくデータの裏付けのない、個人の感想程度の意見である可能性もあります。
そこで、今回は「専門家の意見」という言葉に惑わされないよう、注意点について紹介します。
「専門家の意見」は最もエビデンスが低い
エビデンスとは
エビデンスとは、「根拠」「証拠」のことです。
日常ではあまり使われませんが、学術分野や業界用語として使われます。
- 医学や保険診療分野
治療法の効果を示す証拠や検証結果、臨床結果 - IT業界
システム開発において、作成したシステム、プログラムなどが想定どおりに動くことを示す根拠や検証結果 - その他
経理処理のための、信憑性を担保する請求書や領収書
どれだけ効果の根拠がしっかりしているか、保証できるかといったことを示す指標になります。
今回は、医学や保険診療分野で使われている「エビデンス」について紹介しますが、大筋に関しては、他の分野や業界で使われているエビデンスについても当てはまります。
なぜ専門家の意見を信じてしまうのか?
権威への服従原理
「専門家の意見」のエビデンスレベルを説明する前に、そもそも、なぜ私たちは「医者のお墨付き」のような言葉に説得力や信頼性を感じ、信じてしまうのでしょう?
実は、「人は権威のあるものを信頼し正しいと判断してしまう、権威あるものからの指示や言動に服従してしまう」という性質を持っており、これを「権威への服従原理」と言います。
私たちは、子供のころから「権威の判断は正しい」と教えられながら生きています。
学校の先生の言うことは聞きなさい
ルール(法律)は守らなくてはいけません
お医者さんに言われたんだから薬飲みなさい
悪いことをすると警察に捕まるよ
……
そして、いつの間にか思考停止で「権威」に盲目的に従うようになり、
「なぜ従わなくてはいけないのか?」「(権威が)間違っていることもあるのではないか?」
といった疑問すら持たなくなってくるのです。
そのため、私たちは自然に「権威」に弱くなってしまっているのです。
特に、大学教授、医者、弁護士などの専門家と呼ばれる権威者に弱い傾向にあるようです。
権威への服従の応用場面
この「権威への服従」は、ビジネスなどやマーケティングなどに応用され様々な場面で利用されています。
次のような文言を一度くらいは目にしたことがあるのではないでしょうか?
- モンドセレクション金賞受賞:スーパーの商品
- 現役東大生が実践している○○:勉強関連の書籍
- スタンフォードの最新研究による○○の方法:○○の関連商品
例えば、「モンドセレクションの金賞受賞」と書いてあるだけで、モンドセレクションのことをまったく知らなくても、
『何かの金賞を受賞しているのだから、他の商品より品質が良いはずだ』
『金賞取れる商品なんて凄いじゃないか』
と勝手に思い込んで購入したことがある人も多いと思います。
しかし、モンドセレクションでは、出品した製品の過半数が金賞以上を受賞(2017年)できるような賞であり、90%以上の商品も何らかの賞を受け取れるものなのです。
ミルグラム実験
「権威者の指示に従う人間の心理」に関しての有名な実験に、ミルグラム実験(アイヒマン実験)というものがあります。
<実験条件>
- 被験者:問題の回答者が間違えた場合に電気ショックを与え、間違えるたびに1段階ずつ電気ショックのレベルを上げるように指示され、責任は問わないが最悪死に至る可能性もあることも説明される
- 回答者(サクラ):実際に電気は流されないが、苦しむ演技をする
被験者がいつまで指示に従って電流を流し続けるかを確認する実験となります。
この実験の結果、なんと被験者の60%以上が、サクラが動かなくなっても、最大出力まで電気ショックを与え続けたのです。
参照 Wikipedia「ミルグラム実験」
人がいかに「権威」に弱く、「専門家の意見」を簡単に信じてしまうかお分かりいただけたと思います。
最も信頼できるエビデンス
では、医学や保険診療分野などで用いられているエビデンスの中で、最も信頼できるエビデンスとは何でしょう?
エビデンスレベル
エビデンスにはエビデンスレベルというものがあり、検査法や治療法の信頼度の目安となり、下図のような順番になります。
このエビデンスレベルは、いかにバイアスと言われる系統的な偏りを排除できるかということが一つの基準になっています。
データに基づいていない「専門家の意見」よりは、自分が診察した患者の臨床報告といった「記述研究」の方が信頼性が高く、多くの人を対象とした病気の発症率や原因調査といった「疫学研究」はさらに信頼性が高い、といった具合です。
そして、最もエビデンスレベルが高いのは、様々な研究を集めて評価、要約したシステマティックレビューになり、最もエビデンスレベルが低いのが専門家の意見になるのです。
「専門のお医者さんに言われたから」「医者さんのお墨付きをもらったから」と盲目的に信じてはいけないのです。
信頼できる情報とは
ただ、当然一般人は、システマティックレビューなどの信頼性の高い情報などなかなか入手することができないうえ、できたとしても内容が理解できないと思います。
どうすれば良いでしょうか。
上記では、「医者のコメントを盲目的に信じてはいけない」と書きましたが、やはり信頼性の高い情報は、医学の分野であればその専門家である医者が一番詳しいため、「医者の意見を聞くこと」が一番です。
ただ、何も考えずに盲目的に信じるのは注意が必要なのです。
もちろん医者のような専門家の人は、基本的にはエビデンスレベルの高いデータの裏付けを元に判断、コメントするケースがほとんどです。
製品や書籍に記載してあれば、なおさらデータの裏付けは重視されることでしょう。
注意しなくてはいけない場面としては、テレビなどに出演した医者が、個人の意見として発言した場面や、ちょっとした病気で医者にかかった時に医者から言われた言葉、ネットに乗っている情報などが挙げられます。
例えば、「○○という酵素が脂肪を分解するため、ヨーグルトを食べ続けていれば、運動しないで普段通りに食事しても痩せられるかもしれません」と医者が言ったとします。
○○の酵素云々といった説得力がありそうなことが書かれていますが、この酵素の効果がダイエットに結び付いている、という臨床結果やデータがなければ、「データに基づかない専門家の意見」に過ぎないのです。
効果に対する信頼度は低くなります。
また、医学分野以外でも、「投資家が教える投資方法」「銀行員が教えるお金の〇〇」といった「専門家のコメント」のようなものは、自分の体験談のみに基づいたものである可能性があります。
エビデンスレベルに当てはめると「記述研究」レベルなので、多くの人に当てはまるとは限りません。
専門家の意見が、個人の意見なのか、データの裏付けがあるものかで大きく違うという事をしっかり認識し、何でも簡単に信じないようにしましょう。
まとめ
「専門家の意見」となると、人は権威に弱いという性質があるため、つい無条件で信じてしまいます。
しかし、医学などの分野においては、データの裏付けのない「専門家の意見」は最もエビデンスレベルが低いものとなるので、盲目的に信じないように気を付けて下さい。